vol.3 第二次審査当日 〜

今度の会場は、とある一流ホテルの一室。大体オーディションは広い会場に大勢一気に集められ、番号順に並んで…という、ただでさえ緊張させられる方式が多いのだが、「レミゼ」は一人一人個別の時間差で行われたので、前後誰にも会わない、という素敵なしくみになっていて、今回はそれもスタジオではなく、ホテルの一室!なんてお洒落なオーディションなんだろう、と緊張とワクワクが入り混ざりながら指定の部屋の前へ。

流麗なピアノの音色が聞こえてくる。あれ?「レミゼ」の曲じゃないな…勇気を出して扉をノックして中に入ると、ピアノを弾いていたのは演出家のジョンだった。演出家がオーディションの合間にピアノを弾いているなんていう光景は初めてで、「ひゃー!格好いいーっ!」と感動。私に気づいたジョンは、すぐにピアノの指を止めサッと立ち上がり「よく来てくれたね!」と私をすごくジェントルに席へと促してくれてまた感動。

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部屋にはジョン、通訳の方、ピアニスト、私の四人だけ。プライベートな空間で、ジョンはとにかく穏やかに、オーディションを受ける側の緊張感をほぐしてくれようとする。「僕は君のことをまだ何も知らないから、いろいろ教えてほしいな」と、これまでの経歴や出演した舞台のことなどを聞いてくれて、会話することで少しこちらがリラックスしてきたかなというタイミングで、「じゃあ、歌を聴かせてもらおうかな。まずは君の好きな曲からいこうか」と、まず用意していた自由曲を一曲。曲は少し前に出演した「スヌーピー」というミュージカルで歌い大好きになった「Poor Sweet Baby」。緊張しながらも何とか歌い終わると、ジョンが「良かったよ!」と、その感想を丁寧に伝えてくれてまた感動。

「じゃあ、今度はレミゼの話をしよう。君はこの物語を知っているかい?」と、あらすじを調べただけでまだ原作をきちんと読めていなかった私に、ジョンは物語の大筋、そしてエポニーヌという少女について話してくれた。その上で、「よし、じゃあ、課題曲を聴かせてもらおうかな」と、エポニーヌがマリウスへの叶わぬ恋心を歌う『On My Own』を初めてジョンに聴いてもらうことになる。

「良かったよ!!」またジョンは褒めてくれた。…嬉しかったのだけれど、このオーディションを受ける前にミュージカル仲間から、「海外の演出家のオーディションは、とにかく褒めてくれて、決してがっかりさせて返したりしない」と、つまりリップサービスがうまいんだと聞かされていた私は、絶対にぬか喜びしてはいけないんだ、だって受かるはずないんだもん、とまた自分に言い聞かせたりしていると、「歌穂、そのヒールを脱いだ方がもっとリラックスして歌えるかもしれないよ」とアドバイスしてくれたジョンの心遣いにまたまた感動。

ヒールを脱いで裸足になってもう一度歌うと、「ずっとリラックスして歌えたね!じゃあ、今度は楽譜を広げてごらん」と、その場で『On My Own』という曲のシチュエーション、一曲の中のドラマの展開を、譜面をたどりながら演出してくれ、「今言ったことを思い出して自由に歌ってみて」と言われ、感じたままに精一杯歌うと、「今度はもっと幼く」「今度は少し年をとった感じで」と、一体何回歌わせてもらったのだろう、オーディションというのにまるで贅沢なレッスンを受けているかのような幸せな時間。気が付いたら私一人に一時間くらいもの時間をかけてくれたのだった。

そして最後のジョンの言葉。
「長時間ありがとう。僕は今、君にエポニーヌをやってもらいたいと思っているよ。でも、これからまだ何百人もの人に会わなきゃならないから約束はできないけれど、本当にそう思ってるからね。See You Soon!」

………本当に嬉しかった。そして本当に感動でいっぱいだった。 だけど、私、絶対に受かるはずないんだから、もう、こんなに素敵な幸せなオーディションを受けられて、こんなに嬉しい最高の褒め言葉を言ってもらえて、これで充分!この思い出を大きな勇気にこれからも頑張れる!!と大感動の大感謝で大納得をしながら、私は晴れ晴れと家路に着いたのだった。

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Les Miserables
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vol.1 金色のポスター 〜

vol.2 褒め上手と納得上手 〜

vol.3 第二次審査当日 〜

vol.4 第三次審査 〜

vol.5 最後にもう一度 〜

vol.6 果報は寝て待て 〜

vol.7 電撃的な連絡 〜

vol.8 レミゼと私の始まり 〜

to be continued
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